「生気説」

2020.08.05 Wednesday 05:50
0

    そうして泰西においては、古代希臘(ギリシャ)時代当時自然哲学者等が、宇宙の構成、人間の生命、人体の生成化育、生活機能、健康・病気・気候・食物の関係等にわたって開明の緒につくや、ヒッポクラテスは、医学を哲学より分離し、その基礎を樹立したのである。
    ギリシア最古の哲学は、ミレートス学派にして、その主眼とする所は、宇宙形成の本源は、一にしてその変化によって、万物生成せりといい、タレスは、水を以て右の本源と考えたのである。
    そうして万物を活かす所の力は神にして、磁石の鉄を引くは神霊に基くともいったのである。
    しかるにタレスの友人にして、火時計の発明者アナクシマンドロスは、万物の根源はアペイロン(無限力)なるものが無遍に瀰漫(びまん)し、それが万物生成の根源と考えたのである。
    又ピタゴラスは、精霊の不死を信じて、霊魂輪廻の説を唱え、肉体を以て精神の牢獄となし、医学的に動物体の構成を研究した。
    次にエレア学派のパルメニデスは、万有即一之神なり、神は永久不変、不動なりと唱え、一切は無始無終、不朽不滅、平等普遍の実在であるといい、これがデカルト哲学の先駆となったのである。
    ここに注目すべきは、へーラクライトス(ヘラクレイトス)である。
    彼いわく「万物は一元にして、その化性(けしょう)は火の力にあり」と唱え、「生物の霊魂は、火気より成立して空間に瀰漫せる生気なるものによって体内に入りて成る。
    人死する時は、生気は体より四散して再び宇宙の生気と合一す。
    されば霊魂は火気多くして乾燥せる程いよいよ完備し、従って、叡智高し、これに反して水分多くして、火気少きほど益々遅鈍なり、又よく活動を保持する為には、断えず五感及び呼吸作用によりて外界の光線及び空気中より生気を体内に摂取せざるべからず」と唱えたのである。
    次いで、エムベ・ド・クレース(エンベドクレース)出でて多元論を唱う。
    彼いわく「一切は一元に非ず、多種多様にして、元素の離合集散によりて万物は形成されるのであって、換言すれば、その組合せ方のいかんによるのである」といい、今日の原素の観念を初めて唱え出したのである。
    次いで、アナクサゴラスは更に一歩を進めて、「物質が離合集散の運動があるは、一種の規律の下に進行するのであり、故に、機械的作用のみではない」として種子説を樹てたが、その後アトム説出ずるに及んで、多元論はその頂点に達し、普遍不滅の微小体をアトムと名付けたのである。

    category:戦前の医学論文 | by:mistoshicomments(0) | -
    Comment