「現実無視の悲劇」

2020.07.20 Monday 05:44
0

    「現代医学における現実無視は看過出来ないものがある。
    それについて私の経験及びその他の例を挙げてみよう。
    私は二十数年以前慢性歯痛に悩まされた事がある。それは四本の歯が痛み続ける事一年有余に及んだのである。
    一時は痛苦のあまり頭脳に変調を来し、発狂の一歩手前とさえ思われたのである。
    ついに最後に到って幾回か自殺を企てたるにみてもいかにはなはだしかったかという事が想像されるであろう。
    そうしてこの原因が全く薬毒の為という事が判ったのであるが、それは一年有余苦しんだ揚句、ある動機によって判明したのであった。
    その動機とは、万策尽き藁(わら)をも掴みたい心境になっていた際、たまたま知人から病気をよく治す某宗の行者があるという事を聞いたのである。
    早速そこへ行った。行者は「一週間で治すが、その期間は歯医者に行く事は行(ぎょう)に障るから相成らん」というので、それまで毎日のように通っていた歯医者行をやめたのである。
    しかるに、意外にも三日目か四日目頃だと思う。
    僅かながら痛みが軽くなったのを覚えると共に、豁然(かつぜん)として眼界が開けたように思われた。
    それはそれまで毎日歯医者へ通い、その度毎に薬を用いられていたーその薬の為ではないかーという事である。
    そう意(おも)って回顧してみると、はっきりと浮び上って来た。
    それは最初は一本痛み、且(しば)らくして二本痛み、次で三本四本というように、漸次悪化の経路を辿って来た事である。
    又最初は痛んだ歯のあまりに治癒しない為抜歯した。
    抜歯すると隣接の歯が直ぐ痛み出すというような訳で、遂に四本まで抜歯したのである。
    にも拘わらず未だ四本痛んだのであるから、合計八本の歯が悪かった訳である。
    恐らく私の歯痛位酷いのは、世の中にその例があるまいとさえ思ったのである。
    従って、一年余というもの毎日歯医者へ行き、薬を注(つ)けぬ日とては無かった。
    一日二回三回にも及ぶ事さえあった。
    東京における有名な歯医者を数軒歩いたが治らないので、帝大歯科にも東京歯科医学専門学校にも行ったのであったが、効果がないばかりか、益々悪化の一途を辿るのみである。
    その時、前述の行者に赴いたので幸いにも歯科医に行く事ーその事が歯痛悪化の原因である事を識って、驚いてやめ、自然放置によって漸次快方に向うことになったのである。
     

    category:戦前の医学論文 | by:mistoshicomments(0) | -
    Comment