「科学と迷信」

2020.07.12 Sunday 06:08
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    右は全然迷信的分子の入らないという事の例としては完璧のものと思うのである。
    これによってみても、本医術は科学である事は疑いないであろう。
    そうして、右の患者について、私の観るところをかいてみよう。
    病歴は、最初普通の風邪であって、熱は最高八度前後最低六度台で、それが一週間位続いた後やや不良となり、最高八度五分最低七度五分位となった。
    それが二週間程続いた後俄然として四十度以上の高熱になり、咳嗽悪寒等右に述べたごとくになったのである。
    私が最初診査してみると、病気からいえば八度位が適当であって、高然の出べきはずがないのであるから、四十度以上の高熱は全く下熱剤による反動熱である。
    故に下熱剤服用をやめれば、反動熱は漸次下降し、病気だけの熱になる訳である。
    私はその説明を夫人及び御子息に聞かせたのである。
    次に、驚くべき事は、五日目位の時、医師は診断していわく、最初の乾性肋膜はほとんど全治しているにも拘わらず四十度の高熱が持続するという事は、病気が肺の深部にまで進んだ証拠で、これは容易ならぬ症状であるから、絶対入院しなければならないと夫人に言ったのである。
    私はそれを聴いて笑って言ったのである。
    「肺には何ら異状はない。もし肺臓に病気が進行したとすれば、呼吸に異状がなければならない。
    しかるに、呼吸は普通であるから、医師の診断は誤診であるから安心されたい」と説明したので、夫人も安堵の胸を撫でたのであった。ここで私は右の事実に対し大問題を包含している事を述べたいのである。
    それは、最初単なる風邪であるから、放任しておいても一週間位で全治すべきであるのに、医療は解熱剤によって下熱させようとした、その為に逆に反動熱が発生したのである。
    しかもその高熱に対し、重症の肺患と誤診し、入院させようとするのである。
    そうして入院後は勿論絶対安静によって胃腸を衰弱させ、下熱剤によって反動熱を持続せしめ、その他注射、湿布等によって浄化作用の停止を行うから、漸次衰弱死に到らしめる事は当然である。
    今日結核蔓延とそれによる死がこの様な誤診誤療による事もすくなくないであろう事を想われるのである。
    嗚呼、哀れなる仔羊よ、爾等(なんじら)をいかにして救うべきや!」 (「明日の医術 第2編」より)
     

    category:戦前の医学論文 | by:mistoshicomments(0) | -
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