「脳疾患・病患と医学の誤謬」

2020.06.05 Friday 17:24
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    それについて、こういう例がある。私が以前扱った五拾歳位の婦人であったが、その人は、東北の小さなある町の資産家の夫人で、たまたま脳溢血にかかり、富裕なために、東京からも専門の博士を招きなどして、出来るだけの療法を行ったのであるが、更に効果なく、約弐年を経過した頃は、むしろ幾分悪化の状態をさえ呈したのである。
    しかるに、その頃、その町の町外れの小(ささ)やかな農家の、やはり五拾幾歳で右の婦人と同時頃、中風に罹った男があった。
    それがある日、その婦人の家を、何かの用で訪ねたのである。ところが、婦人は驚いて「あなたも中風で、半身不随との話を聞いたが今みれば、何らの異状もなく健康時と変らないのは、一体どうしたのであるか。どんな療法をしたのか、どんな薬のを服(の)んだのか」と質(き)いた所、その老農夫いわく「儂らは貧乏で、医者へかかる事も出来ず、薬も買えないから、運を天に任して、何らの方法も行わず、ただ寝ていたのであるが、時日の経つに従って、自然に良くなったのである」ーというので、その婦人は、不思議に堪えなかったとの事であったが、私の説を聞いてはじめて諒解がいったというようなことがあった。
    右のような例は二、三に止まらなかったので、これらを以てみても、私の説の誤りでない事を知るであろう。
    近来季節的に流行する疾患に、嗜眠性(しみんせい)脳炎がある。
    これの原因については、医学者間においても諸説紛々として、未だ真の原因は確定しないようである。
    そのうち、割合信じられている説に、「蚊が媒介する」ーという説である。
    もし、蚊が媒介するとすれば、冬季は一人も無いはずであるのに、たまには、患者があるということは、いかなる訳であろうか。
    私の発見によれば、この病気にかかるや、まず、高熱はもとより、特に著るしく左右いずれかの延髄付近に、たえず猛烈に毒素が集溜するので、集溜した毒素は、小脳へ向って流入するのである。
    そうして、延髄付近から小脳部へかけて施術するにおいて、延髄部の集溜は、漸次、減退するのである。
    そうして、普通二、三日を経て多量の目脂(めやに)及び鼻汁が排泄しはじめてくる。
    重症は、それに血液の混入を見ることもある。そうして盛んに排泄せらるるに及び、漸次覚醒して恢復に向うのである。
    右のごとき経過によって、一週間位にして全治するのであって、この病気は、何ら手当特に氷冷を施さなければ必ず治癒し、生命に危険はないものである。
     

    category:戦前の医学論文 | by:mistoshicomments(0) | -
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