「既存療法」

2020.05.16 Saturday 07:43
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    次に、湿布薬及び膏薬について説明してみよう。
    これらも皮膚から薬毒を滲透させるので、その部面の浄化作用を停止するから、一時的苦痛は軽減するが、その薬毒が残存して種々の悪影響を来すのである。
    私が経験した二、三の例を挙げてみよう。
    背部が凝るので、数年に渉ってある有名な売薬の膏薬を持続的に貼用した患者があった。
    しかるに、その薬毒が漸次脊柱及びその付近に溜着して、凝りの外に激しい痛みが加わって来たのである。
    これは全く膏薬中毒である事が明かになった。
    又ある患者で顔面に普通のニキビよりやや大きい発疹が、十数年に渉って治癒しないで悩まされていたのがあった。
    これらも最初、普通のニキビを治そうとして、種々の薬剤を塗布しそれが浸潤してニキビが増大し、頑固性になったのである。
    次に又、最初一局部に湿疹が出来それへ薬剤を塗布した為、その薬液が浸潤し薬毒性湿疹となり、それが漸次蔓延しつつ、遂には全身にまで及んだが、それでも未だ気づかないで、医療は塗布薬を持続するので、極端に悪化し、皮膚は糜爛(びらん)し、紫黒色さえ呈し、患者はその苦痛に呻吟しつつ全く手が付けられないのであって、私は、医学の過誤に長大息を禁じ得なかったのである。
    その他、頭痛に対する鎮静剤や、不眠に対する睡眠剤、鼻孔閉塞に対するコカインの注入等の中毒は周知の事であるから省くこととする。
    次に、漢方薬であるが、これも洋薬と同様中毒を起すのであるが、ただ洋薬のごとくその中毒が強烈でない事が異うのである。
    又その症状も、洋薬のごとく複雑ではないので、それは漢薬はほとんど新薬が出ないから、種類も少なく旧套墨守的である為であろう。
    そうして漢方薬中毒の最も多い症状としては食欲不振及び嘔吐である。
    この嘔吐は常習的であって、大抵は一回の嘔吐で平素通りになるのである。
    しかし、その際の嘔吐は一種の臭いがあるが、それは、以前服用した漢方薬の臭いであるにみても中毒である事が知らるるのである。
    そうして漢方薬中毒者は、腎臓疾患が多く顔色暗黄色で、何となく冴えないものである。
    これについて私は、中国人の顔色は赤味がなく、青黄色が多いのは、祖先以来の漢方薬服用の結果ではないかと惟(おも)うのである。
    そうして、洋薬も漢薬もそうであるが、多くを使用した者ほど皮膚は光沢を失い弾力なく、青壮年者にして老人のごとき状態を呈するのである。
    しかるに、かくのごとき人といえども、薬剤を廃止するにおいて、年々薬毒的症状が消えるに従って若返るのであるにみて、この点においても、薬毒のおそるべき事が肯れるであろう。
     

    category:戦前の医学論文 | by:mistoshicomments(0) | -
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