「既存療法」

2020.05.13 Wednesday 06:38
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    「病気治療の方法として、今日行われている種々の療法について一通り解説してみよう。
    まず、西洋医学における治療法は、薬剤その他の方法を以て、浄化作用停止である事は、読者は最早充分諒解されたであろう。
    しかし、未だ言い残した事があるから今少しく述べてみよう。
    私の経験上、最も怖るべきは注射療法として、彼の六百六号一名サルバルサンがある。
    これは周知のごとく、駆梅(くばい)療法として、一時は、実に救世主のごとく思われたが、何ぞ知らん、事実は恐るべき結果を来すものである。
    そうしてこの薬剤は人の知るごとく、原料は砒素(ひそ)剤であって、同剤は耳掻き一杯で、人命を落すという程の猛毒であるから、注射するや一時的浄化作用停止の力は強烈なものである。
    即ち梅毒性発疹や腫脹に対し、同剤を注射するやたちまちにして消滅するから、一時治癒したように見えるのである。
    しかし、実は潜伏毒素が、浄化作用によって、皮膚面に押出されたのが同剤の注射によって、浄化作用は停止し、毒素は浄化作用以前の潜伏状態に還元したのである。
    それだけならいいが、右の砒素は、不断の浄化作用によって、漸次体内の一局部に集溜するのである。
    その集溜局所として、最も多きは頭脳で、砒毒が頭脳に集溜する結果は、大抵精神病は免れないのである。
    その際医家は誤診して脳黴毒というが、何ぞ知らん、実は駆黴療法の結果であるというに至っては、何と評すべきや言辞は無いであろう。
    近来、精神病激増の傾向があるが、私は六百六号の原因による事もすくなくないと想うのである。
    次に、恐るべきは、六百六号に因る眼疾であるが、大抵は失明するのであって、この症状はほとんど片眼が多く治癒に頗(すこぶ)る困難である。
    もっとも医家により眼疾のある患者は悪化するとして、同剤の注射を見合す由である。
    その他種々の病原となる事は明かであって、私の経験上、同剤注射の経験をもつ患者の病症は、特に治癒に時日を要するのである。
     

    category:戦前の医学論文 | by:mistoshicomments(0) | -
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