「黴菌及び伝染病」

2020.04.07 Tuesday 06:38
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    故に私はこう言いたいのである。
    それは伝染という名称は当らない。
    誘発という名称が妥当である…と。
    右の理によって、黴菌の存在理由は判った事と思う。
    即ち人間に対し浄化作用を行う…いわば「毒素の掃除夫」のようなものであるから、むしろ伝染否誘発をした方が健康上良いのである。
    故に、実際上からみても、高度の文明国が伝染病の著減を誇りながら体位が低下し人口逓減(ていげん)という問題に悩まされつつあるに対し、伝染病の多い非文化民族が右の反対である状態に思い及ぶ時、右の説の謬りでない事を知るであろう。
    即ち、高度文明国民は濁血の持主でありながら、病菌を極力防止する結果、伝染病が著減したのである。
    前述のごとく、浄血者のみになって、伝染病が減少又は絶無になる事こそ理想の健康民族というべきである。
    そうして勿論血液中の毒素とは、そのほとんどが薬毒である事はいうまでもないのである。
    ここで私は、再び結核その他について説明する必要がある。
    それは医療においては殺菌と称し菌を殺滅せんとして、それのみに熱中している。
    黴菌さえ殺滅すれば、病気は治癒するように解釈しているが、これ程誤りはないのである。
    肺結核のごとき菌のみ殺さんとしても、それは到底不可能である。
    何となれば、服薬、注射液等が、血液その他を通じて、結核の病竃(びょうそう)部に達するまでには、薬剤の殺菌力はほとんど無力同様になるであろうからである。
    もし病竃部まで殺菌力が消滅しないような、強烈な薬剤であるとしたなら、そのような薬剤は、使用するやたちどころに生命の危険に及ぶのは判り切った話である。
    故に、薬剤による殺菌作用はいか程研究しても、それは全く無益の努力に過ぎないと思うのである。
    しからば、その殺菌の目的を達成せんとするにはいかなる方法が妥当であるかというに、それは菌の繁殖をして不可能ならしめる事である。
    即ち、菌の繁殖の原因を除く事である。
    即ち菌の食物を絶無にして餓死せしむる事でそれ以外に方法はあるべきはずがないのである。
    そうして食物皆無とは、浄血者になる事である。
    浄血者になるには、薬剤を使用しないことである。
    しかるに今日の医療は、黴菌の食物の原料を供給しながら、黴菌の繁殖を防ごうと努力するのであるから効果は挙らないのは当然である。
    それでやむを得ず、消極的防止方法に努力する訳である。
    ここで注意したい事がある。
    それは私の研究によれば、結核の黴菌と虎列剌(コレラ)、赤痢、チブス等のごとき黴菌とは全然性質を異にする事である。
    それは、後者は伝染するが前者においては伝染しないという持論である。
    従って、この意味において、後者は防疫の必要があるが、前者は何ら消毒の必要はないのである。」 (「明日の医術 第1編」より)

    category:戦前の医学論文 | by:mistoshicomments(0) | -
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