「黴菌及び伝染病」

2020.04.06 Monday 06:31
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    それについて、有力な一つの実例を示してみよう。
    それは、昭和十年九月三日の読売新聞の記事によれば、東京におけるバタ屋即ち屑(くず)を扱う人間が一万二千人程居るが、市社会局では昨年十二月中旬、足立区を中心として、認可のある屑物買入所所属の拾い子について、詳細な調査を行ったが、二日その結果を発表した。
    それによると、あれ程不衛生な仕事に従事していながら、彼らの間に伝染病その他の病人の少い事は意外である、そうして調査人員二千四百拾五人の中、女子は僅かに六拾人の少数であった。
    調査人員の年齢は三拾一歳から五拾歳に至るものが一二九九人を数えて、全員の過半数を占めている。
    健康状態は、慢性胃腸病患者が最も多く、次にアルコール中毒者という順である。
    そうして伝染病、肺結核、性病が割合少ないのである。即ち二四一五人のうち、健康なるもの二一二三人、虚弱者八十五人、老衰者五十八人、障害者三十五人、廃疾八十五人、その他の疾病三拾二人となっている。
    右の例によってみても瞭(あきら)かなるごとく、病菌による伝染病はほとんど無いと言ってもいい位である。
    故にいか程病菌に接触する者といえども健康者なるにおいて、容易に伝染するものではない事を知るであろう。
    次に、病菌なるものは、今日まで人類に害を及ぼすものとされ恐れられているが、これはあながちそうとのみ言えないのである。
    あるいは、有益であるかも知れない。何となれば、この世に存在する限りのいかなる物といえども、人間に不必要な物はないはずである。
    もし必要がなくなれば、自然淘汰されるのが真理である。
    ただ、無用であるとか有害であるとかいうように、人間が勝手に決めるのは、今日の文化の程度においては、その物の存在理由が不明であるからである。
    それについて私は、病菌と伝染病について、私の研究の結果を説いてみよう。
    これによって専門家は固より、読者諸君においても判断せられたいのである。
    そもそも、伝染病なるものは、他の病気と等しく浄化作用であって、それが頗(すこぶ)る強烈急性なる為人間は恐れるのである。
    そうして病菌の活動によって、血液中に存在するある種の毒素を、解消する為の摂理作用である。
    勿論不浄血者は、不健康で、人生の活動に支障を及ぼすからである。
    しからば、病菌による伝染とは、いかなる経路といかなる理由によるかを解いてみよう。
    最初、病菌が人体の皮膚、粘膜、食物等から侵入するや、速かに血液中に進行する。
    しかるに、血液中の毒素なるものは、実は黴菌の食物となるので、菌はその食物を喰う事によって繁殖する。
    故に、食物が多い程、繁殖するのは当然である。そうして、黴菌が食物を食いながら非常な勢を以て繁殖し、ある数の子を生むや、次々死滅するのであってその死骸は、血液、糞尿又は喀痰、唾液等に混じて排泄されるので、これによって完全に浄血作用が行われるのである。
    故に、赤痢、チブス、麻疹(はしか)、天然痘、疫痢、百日咳等、総て伝染病の予後は、発病以前よりも健康になるに鑑みて右の理は明かである。
    しかし、伝染病恢復後、健康が捗々(はかばか)しくない者もあるが、これは医療によって浄化作用を抑止するから、毒素が残存する為である。
    又、医学上保菌者というのがある。それは菌があっても発病しないのであるが、これはどういう訳かというと、黴菌の食物が少しあるからである。
    即ち滅亡せぬだけの食物はあるが、繁殖する程はないのである。
    従って、全く毒素の無い浄血の持ち主はたとえ黴菌が侵入しても食物がないから直ちに餓死するので、伝染しないという事になるのである。

    category:戦前の医学論文 | by:mistoshicomments(0) | -
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