「人的資源と現代医学」

2020.04.02 Thursday 06:11
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    今一つ厄介な事がある。それは早期診断の一事である。
    さきに説いたごとく初期の結核患者は放置しておけばそのほとんどは自然治癒するのである。
    しかるに早期診断によって初期的症状が発見せられるや、強制的に医療を施されねばならず、隔離もされなければならないのである。
    しかも結核症を暗示又は宣言せられるので、患者はまず不治的絶望観念によって、精神的に大打撃を受ける。
    それがまず元気を喪失させ、食欲を減退させるから、急速に衰弱するのである。
    加うるに、薬毒その他の病気増進方法を施すにおいて、霊肉共に重症に向うのは判り切った話である。
    以上のごとき事実は、今日当事者は素より、何人といえども常に見聞する所であろう。
    私は、いささかの誇張もなく現実を述べたつもりであるから、医家は勿論、患者諸君においても、この一文を読む時、思い半(なかば)に過ぎると思うのである。
    右のごとき事実によって、私は人的資源を阻止する最大なる原因は、医学そのものである事を断言するのである。
    これに目覚めない限り病者はいよいよ漸増し、政府がいかに懸命になって対策を講じようとも、遺憾ながら人的資源の不足は解決され得ないであろう。
    しかも医学に依存する以上、焦慮すればする程、逆効果がはなはだしくなるからその前途は実に寒心の外ないのである。
    嗚呼! この重大事をいかにして一日も早く、我国民に知らしめ得べきやと私は日夜痛心しているのである。
    そうして政府は、人的資源の不足を補う為中小商工業の整理統合を行い、人的資源を泛(うか)び上らせては、それを重要産業に振向けている。
    しかるに一方においては、体力管理や早期診断によって、重に結核の初期を発見しては、それらを静養又は隔離する方法をとっている故に、右の結果はどうなるかというと、一方人的資源を浮び上らせると、それを一方では消滅させるという、ちょうど、笊(ざる)へ水を汲んでいるようなやり方である。
    なおかつ、従来軽労働であったものを、工場労務者のごとき、激しい労働に転向させる以上猛烈なる浄化作用が起るのは必然であるから微熱、咳嗽、疲労感等、結核的症状が発生するので、いよいよ人的資源は不足するのは当然である。
    しかるに、整理統合によって浮び上らせる資源には限度があるから、いずれは人的資源の一大不足に悩まされる時期が来ないと誰が言い得るであろう。
    そうして、私の創成したこの医術を政府が採用し、これを国家全体に施行するとすれば、その結果はどうなるであろうかを、私は想像して書いてみよう。
    それはまず病者は日に月に漸減してゆく。
    ほとんどの病者は仕事に従事しながら治癒してゆく。
    特に肺結核は激減し、感染の恐怖からも解放せられるであろう。
    伝染病も漸減するは勿論、伝染病で死亡する者は極僅少となるであろう。
    従って、伝染病菌の恐怖からも解放されるであろう。
    何となれば病菌が侵入しても発病しないという健康体になるからである。
    そうして大抵の病気は一週間以内で治癒するのであるから、人間は病気の不安から全く解放されるであろう。
    栄養食の必要もなくなり、故(いたず)らなる健康法の必要もなくなるであろう。
    人間の寿齢は年々延長するであろう。そうして健全なる肉体には、健全なる精神が宿るという事が真理であるとすれば、国民の思想は、肉体の健康に比例して健全になるであろう事は勿論である。
    そうして不幸の最大原因が病気であるとすれば、不幸も貧乏も争いも著減(ちょげん)する事は言うまでもないであろう。」 (「明日の医術 第1編」より)明日の医術 第一編 (人的資源の危機・生産増加の根本条件)

    category:戦前の医学論文 | by:mistoshicomments(0) | -
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