「人的資源と現代医学」

2020.04.01 Wednesday 07:08
0

    「今日の重大時局における我日本の最大目標としては、言うまでもなく、大東亜共栄圏の完遂である。
    しかも、これを達成する最大要素としては、何といっても人的資源の問題であろう。
    当局が、産めよふやせよと、あらゆる方策を施行しつつあることもそれが為である。
    しかしながら、一歩退いて考える時、こういう訳になろう。
    即ち今生れた赤児は、少くとも向後二十年を経なければ、実際の役には立たないのである。
    この意味において、現在切実に要求する人的資源は、どうしても青壮年期の現にその職域に奉公しているものでなくてはならない。
    最近政府が実行した国民登録者の年齢が、男子において十六歳以上四拾歳まで、女子において十九歳以上二拾五歳までとしたのは宜(むべ)なりというべきである。
    最近聞く所によれば、蘇聯(ソ連)は、同国の成年者の寿齢を十ケ年延長すべく、その方法を二万五千留(ルーブル)の懸賞金を課し募集しているそうである。
    蘇聯がなぜ右のごとき方法を発案したかについては理由があるのである。
    それは近代国家として割合短期間に、世界の最大強国となった彼の米国の発展素因を研究した所、その最も重なる原因としては、同国が世界各国からの移植民を吸収した事に因るというのである。
    勿論、移民には赤ン坊は滅多にない。そのほとんどが成年者である。
    ここで考えなくてはならない事は、まず赤児から十五、六歳までは、国家に対する時、それは物資及び労力の消耗者である事であって、十五、六歳を越ゆるに及んで初めて生産者側に立つのである。
    従って移民なるものの消耗時代はそれぞれの本国の負担となっており、成年者即ち一人前の生産者となるに及んで移民となるので、米国が今日の大を成すまでの人的資源としては、消耗者は少なくて生産者が大多数であったというその事が発展の一大原因であった事を蘇聯は知ったのである。
    これを知った蘇聯は、生産部面の人的資源である成年者を増加する事こそ、この際の重要事であるという理由から寿齢の延長という事に気がついたのであろう。
    しかも平和時代よりも何倍の喫緊性を要する戦争時代においておやであるからである。
    しかしながら右の理由は当然今日の吾日本にも当嵌まる事は言うまでもないであろう。
    この意味において、最も急速に人的資源を増強するというには、罹病者を無くするということほど、絶対的効果のある方法は、他にないであろう。
    しかるに、今日社会各層を見るがいい。
    およそ罹病者の多い事実は、恐らく空前ともいうべきで、日本人中、真に完全なる健康体は何人あるであろうか。
    想像するさえ不安の極みである。
    それは、さきに示した各種の統計によっても、読者は充分肯き得たであろう。
    今日の医学が、病人を作る医学であり、医療によって軽病者も重病者となり、ついに死にまで到らしむるという事は充分説明した通りである。
    しかも医療は、最も増加の趨勢にある結核患者に対し、絶対安静を奨めるが、それらの方法によって完全に治癒するならば、ある期間の職業放擲(ほうてき)もやむを得ないとするも、そのほとんどが長期間安静の結果、ついに生命を失くするというに至っては、実に国家の損失は鮮少ではあるまい。
    しかも長期間安静患者を看護するに要する人員や、それに使用する薬剤機械等を製造する人員、資材等精細に計算する時、実に想像以上の莫大な数字に騰(のぼ)るであろう。

    category:戦前の医学論文 | by:mistoshicomments(0) | -
    Comment