「非科学的医学」

2020.03.30 Monday 06:28
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    次に私は、種々の例を挙げてみよう。
    ここに、医家の子女が病気に罹ったとする。
    しかるに、不思議な事には、大抵は父である医家が診療しないで、友人等の他の医師に依頼するのがほとんどであろう。
    常識で考えても大切なわが子女の病気を、自分の手にかけないで、他人の手に委せるという事は、ないはずである。
    それらは全く自己の医術に自己が、信頼出来得ないからであろう。
    実験上、自分が診療するよりも、他人に委した方が、より結果が好いからである。
    しからば、これはいかなる訳であろうか。
    医家としても、恐らくこの説明は出来得ないであろう。
    それに対し私はこう思うのである。
    医学は、浄化停止であるから、医療を加えるほど病気は悪化する。
    わが子女である以上、熱心と、能うかぎりの療法を行う。
    勿論、薬剤も高級薬を選ぶであろう(高級薬ほど、薬毒が強烈である)から、結果はわるいに定(きま)っている。
    しかるに、他人においては、普通の療法を行うから悪化の程度が少い。
    それで、治癒率が良いのである。又、医家において、こういう経験が良くあると聞いている。
    それは、是非治したいと思う患者ほど治り難く、それほど関心をもたない患者は、反って治りが好いということである。
    これらも、前者と同様の理に由る事は勿論である。
    又、少し難病になると、医家の診断が区々(まちまち)である。
    一人の患者に対し、五人の医家が診断するにおいて、おそらく五人とも診断が異るであろう。
    これらも、科学的基準がないからである。
    故に、私は、医学は機械的ではあるが、科学的ではないと言うのである。
    そうして、西洋医学の診断及び療法が、いかに無力であるかを、最近の例を以て示してみよう。
    それは、先頃物故した、帝大名誉教授長与又郎博士である。
    同博士は、癌研究においては、実に世界的権威者とされている。
    それで、同博士は以前から「自分は癌で斃(たお)れる」と言われていたそうであるが、果せるかな、死因は癌病であったのである。
    発病するや、各名国手(こくしゅ)も、博士自身も、疾患は肺臓癌と診たのであった。
    しかるに、死後解剖の結果、癌の本源は腸に在って、それが、肺臓内へ移行したとのことであるから、この腸癌は、生前発見されなかったのである。
    この事実によって、私は冷静に検討してみる時、こういう結論になると思う。
    一、長与博士程の大家が、自身の癌発生を防止し得なかった事。
    二、又、自身腸癌の存在が、明確に知るを得なかった事。
    三、各国手が診察しても、腸癌の発見が出来得なかった事。
    四、博士自身は固より、各国手がいかに協力しても治癒し得なかった事。
    右に対し、私は多くをいう必要はないと思う。
    ただ、現代医学の価値を、事実が証明したと思うのである。
     

    category:戦前の医学論文 | by:mistoshicomments(0) | -
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