「国民体位低下の問題」

2020.03.23 Monday 06:09
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    次に、学生の体位はどうであろうか。
    我国の壮丁検査に現われた国民の健康体位の現状と、都市と田舎の比較は右のごとくであるが、これを今職業別に眺めてみよう。
    不合格者を職業別に見る時その筆頭は学生であってその不合格率は、千人につき五百数十人という、実に半数を超える不成績振りである。
    特に東京府と大阪府のごときは六百人に垂(なんな)んとしているのには驚かされる。
    東京と大阪の学生の体位、健康の低率振りを証明するものとして、次の様な一例証が挙げられる。
    即ち東京市における某中学校五年の生徒中いわゆる健康生徒として、近衛師団に営内宿泊したもの九十八名につき、健康診断を行った結果は、九十八名中三十九名という実に四割が慢性の胸部疾患を持っていたというのである。
    右の例証は実に学校当局、軍当局をおどろかせたものであるが、家庭としても国家としても学校としても、この事に深く顧みる所がなくてはならない。
    学生のスポーツが普及発達した今日、これは全く不可思議な事に違いないが、そのスポーツの普及発達振りが誤った方向方針において行われているのではあるまいかーと疑わざるを得ないのだ。
    スポーツなるものが、あるいは国民の体位向上の線を外れているのではなかろうかと疑うのである。
    しかしながら学生の体位低下振りは、単にスポーツ問題のみでは片付けられない。
    家庭、社会、国家、それから教育制度一般からの解決によらねばならぬことは勿論であるが、なお学生の体位健康につき付記したい重要な事柄は、彼ら学生は教育程度の進むにつれて、その徴兵検査不合格の率が逓増(ていぞう)して居りその原因たる疾病の程度もますます増悪しつつあるという事だ、即ち丙種の不合格者は、大学卒業者に最も多く、次が高等学校及び専門学校の卒業者で、これに中等学校卒業者、小学校卒業者という順序である。
    ただ小学校卒業者といっても尋卒のものは高卒のものよりも却って丙種の不合格者が多いのであるが、ここにも大きな社会問題、教育問題が横わっている訳である。
    次に、都市生活が小学児童の健康に及ぼす影響について、調査を進めている市教育局では、本年度(昭和十一年)の小学児童十二万八百七十八名から十万六千八拾五名の身体検査を行った結果、耳鼻咽喉科の患者男児九千五百六拾四名、女児八千五百九拾五名、合計一万八千百五十九名を筆頭に各種疾病の所有者が検査児童の約半数の四万三千六百七拾七名という多数を占め、うち弐百七拾参名は就学猶予という慨(なげ)かわしい状態に、今更不健康地都市の現実に驚くのである。
    疾病児童の内訳は△眼科男四一五二、女九二二三、△皮膚科男二四六八、女一四九二、△ヘルニヤ、心音不純、気管支カタル、男二五三五、女一九○九、△骨関節筋肉故障男八四七、女五六○である。
    次に、わが国民の近視眼の多い事実は、世界的に有名であるが、今文部省体育課が全国の学生、生徒および小学児童について行った調査は、真に恐怖すべき結果を示している。
    すなわち大正拾一年度において、小学校では男一二・九三パーセント、女一五・二七パーセントであったものが、昭和五年には男一六・二四パーセント、女一九・六九パーセントと累進、その他の学校は大正九年度と昭和五年度とに左のごとき百分率を示している。
              (大正九年)  (昭和五年)
    高等女学校     一六・六三   三四・○七
    中等学校      二一・七五   三六・三三
    実業学校      二一・七二   三四・三八
    節範学校(男)   二六・六五   四三・六五
        (女)   一九・二三   四○・二五
    専門学校(男)   四一・五三   四二・七一
        (女)   二○・五五   五三・九八
    これは極めて大ざっぱにいえば、小学校へ入った時は一割五分の近視眼が、中学校に入る時には二割に増え、専門学校になると五割となる。
    これに加うるに、大体五拾歳以上の人々の老眼や乱視や斜視等を勘定に入れると実社会で活動している人の六、七割の人々が不便を感ずるなり、無用に神経を浪費するなりして、活動の能率を下げている訳である。
     

    category:戦前の医学論文 | by:mistoshicomments(0) | -
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