「乳幼児の死亡率問題」

2020.03.20 Friday 06:32
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    死亡診断書は病児の最終の病名を記載するものである。
    最初気管支炎で重症とも考えられない乳児が実は先天性弱質であったためにもろくも死亡したような場合もある。
    また消化不良症に罹って栄養状態が不良であり、次で肺炎を併発して死亡した場合診断書には肺炎と記載されるのが普通である。
    早産で発育状態の十分でない場合に消化不良症を合併した場合には診断書には消化不良症と記載される。
    また乳児が消化不良症で死亡した場合その死因は明かに消化不良症であるが、この疾患を惹(ひ)き起し遂に乳児を死に至らしめたものは母乳分泌欠乏のため人工栄養を行ったが、その人工栄養方法に過誤があったためであることもあり、また栄養方法は十分心得ておっても牛乳または優良なる乳製品を購(あがな)うべきも資をもたなかったために、あるいは牛乳並に乳製品の配給機構に不備があったために遂に乳児を死に至らしめる場合もある。
    等しく死亡診断書病名は消化不良症であってもその消化不良症を惹き起した原因には複雑多様の医学的社会的の諸原因が伏在している。
    麻疹と百日咳とはほとんどすべての乳幼児が罹患するが、この疾患のみのために死亡することはまずないのが普通であるが、麻疹と百日咳とに肺炎が併発するとその死亡率ははなはだしく高くなる。
    かく観察すれば、一人の乳児幼児が死亡した場合には死亡診断書に記載し得ざる種々様々の先天性並に後天性の原因が遠く近く働いていることを知らねばならない。
    即ち、乳幼児の死亡原因には死の直接原因または終局原因と間接原因または第一次原因とがあることを知るのである。
    しかし、第一次原因には先天性のものと後天性のものとまたその両者の混合とがある。
    次に、昭和十五年五月から九月の間に厚生省体力局において全国乳幼児一斉審査を行った成績の一部であるが、大体審査を受けたのは生後二ケ月を経たものから一年二ケ月までのもので、その数はおよそ百五十一万人でその中二割七分に当るおよそ四十一万人が注意を要すべきものであって、病気のものがおよそ十八万人、栄養不良のものがおよそ二十万人である。
    左記の表はその一部で、福鳥、茨城、奈良、香川等で査べた病気の種類であるが、これによって大体の趨勢を知る事が出来よう。
    栄養障害及消化器系疾患  消化不良症              二、九四一
                 胃腸カタル              一、五一○
                 脱腸                 一、四一一
                 栄養障害症(穀粉栄養障害を含む)     七○四
                 その他                  一三一
                 計                  六、六九七
    呼吸器系疾患    気管支炎                  一、五四一
                 感冒                   三六七
                 扁桃腺炎及肥大              一一六
                 肺炎                   一一六
                 喘息                    五二
                 肺結核                   三四
                 咽喉カタルその他              五六
                 計                  二、二八二
    ビタミン欠乏症      乳児脚気                 三九○
                 ピタミン欠乏症               一二
                 その他                   一五
                 計                    四一七
    血液及循環器系疾患 心臓病(弁膜障碍を含む)             二七
                   貧血病その他              七三
                   計                  一九○
    淋巴腺及皮膚疾患 湿疹                     一、九三六
                 淋巴腺炎及腫〔肥〕大           三一四
                 その他                  八九五
                 計                  三、一四五
    神経系疾患        脳水腫                   一九
                 小児麻痺                  一六
                 その他                   一四
                 計                     四九
    泌尿生殖器系疾患     陰嚢水腫                  七四
                 その他                    一
                 計                     七五
    眼疾患          結膜炎                  二九○
                 トラホーム                一七○
                 その他                   七四
                 計                    五三四
    耳鼻疾患         中耳炎及耳漏その他            四九四
                 鼻炎                    一六
                 計                    五一○
    伝染性疾患        麻疹                   七七九
                 百日咳                  二〇六
                 水痘                   二○四
                 黴毒                    六四
                 その他                   二二
                 計                  一、二七五
    その他の疾病                          一、一七六
    (昭和十六年四月二十三日 内閣写真週報所載)
    以上のごとき統計によってみるも乳幼児死亡率はまことに寒心すべきものがある。

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