「乳幼児の死亡率問題」

2020.03.19 Thursday 06:30
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    「肺結核に次いで、乳幼児の死亡率は人口問題の重要部門である。
    しからば現在の趨勢はどうであろうか、左に示してみる事にする。
    昭和十二年における本邦総死亡数は百二十万七千八百九十九であって、その中乳幼児(就学前)の死亡は三十九万七千八百七十である。
    乳幼児の死亡数は実に総死亡数の三分の一を占めている。
    しかしてこの乳幼児の死亡を年齢別に観るに、乳児は二十三万七百十一、一歳は七万二千九百九十一、二歳は三万八千九百五十五、三歳は二万六千五、四歳は一万七千八百五十四、五歳は一万一千三百六十四であって小児は年齢が若いほど多く死亡する。
    逆に年齢の進むに従って死亡数は急激に逓減している。
    次に本邦の乳幼児死亡を独英米の三国についてみるに、各歳人口一万対の最近の死亡率と比較するに乳児においては日本一三○・○○、独逸八四・九九、英国七九・七八、米国六四・五○である。
    一歳は日本三九・九○、独逸九・三三、英国一七・○三、米国八・九○である。
    二歳は日本二一・二○、独逸四・四五、英国七・○二、米国五・○三である。
    三歳は日本一四・○○、独逸三・四○、英国四・六五、米国三・六四である。
    四歳は日本九・二一、独逸二・七六、英国三・六五、米国三・二五である。
    日独英米の四ケ国の比較において乳児については日本は他の三国の約三倍である。
    一歳以上四歳についても諸外国の三倍ないし五倍で、本邦の乳幼児死亡率は各歳を通じて他の三国の三倍から五倍である。
    しからば乳幼児死亡の原因は何か、乳幼児の死亡原因を、先天性のものと後天性のものとに分けて検討するに、先天性の原因に因るものはそのほとんどすべては生後一ケ月以内に死亡している。
    生後一ケ月間の生活は本格的に現世に呼吸しているのであるが、先天性の異常や疾病をもつものはその生活力が生命を維持し得ず死亡するか、未だ外界との交渉がないので環境の影響が薄く死に至るほどの疾病に罹かることは少い。
    次で生後二ケ月以後は先天性原因の残余のものが少数死亡し大部分は後天性の疾患によって死亡している。
    今、乳幼児(○−四歳)の死亡原因について昭和十三年の統計表によって観察すると、先天性と見なし得る死因としては(一)「先天性弱質」(二)「先天性畸形」(三)「分娩時による産児の障碍」(四)「早産」(五)「先天性黴毒(ばいどく)」(六)「その他の幼弱乳児固有の疾患」である。
    その数は「先天性弱質」は六万五百六十九、「先天性畸形」は三千六百十四、「分娩による産児の障碍」は三百八十一、「早産」は五千四百十、「先天性黴毒」は二千二百七十、「その他の幼弱乳児固有の疾患」は八千九百七十一であって、総数は八万一千二百十五で同年の乳幼児死亡総数三十六万五千八百五十二の中、先天性死因は四分の一強を占めている。
    次に、一歳二歳と年齢の進むに従ってその死因は後天性の疾患となる。
    この後天性死因として乳幼児期を通じて重要なる疾患は肺炎等の呼吸器疾患と下痢及び腸炎(消化不良症を含む)で、乳幼児後天性死因の二大疾患である。
    肺炎に因る死亡数は六万九千八百十六であるが、肺炎と気管支炎とは診断の明瞭ではない場合もあり、また等しく呼吸器の急性疾患であるから両者を合すると八万百六十二である。
    この死亡数は先天性原因に因る死亡数と約同数であって総死亡数の四分の一強である。
    下痢及び腸炎に因る死亡数は七万六千九十一でこれは総死亡数の四分の一弱である。
    乳幼児死亡の三大原因ともいうべき(一)先天性原因(二)肺炎及び気管支炎(三)下痢及び腸炎(消化不良症を含む)に因る死亡数は実に二十三万七千四百六十八人であって乳幼児総死亡の六割四分強に当っている。
    残余の二割五分強がその他の後天性疾患に因る死亡である。
    次で幼児の年齢が進むに従って増加する疾患は幼児期の急性伝染病であって、赤痢及び疫痢(一万四千六百四十一)、百日咳(八千六百五十三)、麻疹(四千六百四十三)、ジフテリア(二千八百七十三)等である。
    これら急性伝染病は年齢の進むに従ってその罹病率は増加する。
    以上は統計によって乳幼児死亡原因を講究したのであるが、対策の実施計画を進める場合にはかかる統計に記載の病名は医師の死亡診断書病名の集計である。
     

    category:戦前の医学論文 | by:mistoshicomments(0) | -
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