「結核問題とその趨勢」

2020.03.07 Saturday 07:23
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    次に参考として結核療養所の概況を示してみよう。
    東京府、市ではそれぞれ北多摩郡清瀬村東京府立清瀬病院、同静和園、同久留米学園、中野区江古田東京市療養所等に患者を収容している。
    手続は府または市立の健康相談所で診察(無料)を受け、方面委員、区長等を通じて府知事または東京市療養所長へ申込むのであるが、貧困者のために設置されている療養所であるから普通月収百円以上の人は許可されない。
    現在患者の申込は非常に多く、普通申込んで六ケ月から十ケ月近くもかかるのである。
    この他に市では有料患者も扱っている。入院料は一日一円五十銭であるが、この有料患者でも普通申込んで約三ケ月近くもかかるという事である。
    民間では救世軍、済生会等で無料でやって居るが、これも申込者が非常に多いため短時日では人院出来得ない。
    そのほか民間の有料病院の主なる所は、入院料は一日八十銭から二日五十銭位までである。
    次に結核に対し国家経済からみてどうであろう。
    結核病について内務省は、一ケ年の死亡者十二万人、患者数は約十倍の百二十万人、その療養費を一日一円と見なして一ケ月三千六百万円、一ケ年四億三千二百万円と発表して居る。
    この額は最低見積の療養費で実際は二倍も三倍も要するのである。
    仮りに一日二円を要するとせば一ケ年八億六千四百万円となり、我国財政の三分の一(これは事変前の計算による)に相当する不生産的巨費を蕩尽せられ国民経済に脅威を醸す暗礁となって居るのである。
    又その反面、精神的に物質的に伴随する人生の憂愁事は筆紙に尽されないのである。
    一家の大黒柱と頼む主人が罹病すれば、財産を傾け遂に妻子眷族を悲惨な境遇に陥入れ前途有望なる青年の修養期を病苦に封じ去る損害も多大なものである。
    恒産なき労働階級者が罹病のため飢餓に泣き、その他自殺者犯罪者の誘引となり、国家に多大の損害を与え、又恐るべき思想悪化の動機ともなって居る。
    東京の大震災における死者は約八万人であった。日露戦役における戦死者も約八万人である。結核病で死亡する人は年々十二万人である。
    さすれば一ケ年半の間に東京大震災と日露戦役が繰返されているのと同様で、それがいつ果つべくもなく永久に続くとは慨(なげか)わしいことである。
    これは畢竟(ひっきょう)、国民が結核に対し無理解なるに原因している。結核患者百二十万は内務省の推定であるが、結核を自覚しないような軽症患者を加算すると莫大なものとなるのである。
    しかしながら今日は死亡数十五万人以上となっているから、右の数字より二割五分の増加になる事になる。」 (「明日の医術 第1編」より)

    category:戦前の医学論文 | by:mistoshicomments(0) | -
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