「結核問題とその趨勢」

2020.03.06 Friday 07:51
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    「結核問題とその趨勢」
    次に結核の為いかに悲惨なる人々や家庭が生れつつあるかその実例を挙げてみよう(新聞記事による)。
    警視庁では亡国病肺結核の予防撲滅にのりだしさきには特別の委員会まで開いてこれが予防策を協議したが、新年度から同疾患者の巡回無料診察を行うとともに方面委員や医師会町会などと力をあわせこの恐るべき病菌の一掃にあたることになった。
    まずその第一歩として最も急を要するカード階級の結核患者調査を行ったが二月末現在における患者の総数は、荒川区の百五十余人を筆頭に一千三百五十二名にのぼり想像も及ばぬその悲惨な境遇には当局でも驚いている。
    その為病菌に征服された敗残者の生ける屍の姿ー
    「神田区」美土代(みとしろ)町雑役婦IMさん(五○)ー仮名以下同じーは、母Yさん(八一)三女Kさん(二一)三男Y君(一八)四女Yさん(一六)と五人暮しであるが同家は六畳と三畳の二間だけしかなく長女と次女は最近相次いで結核病で死亡、二男A君(二四)は同病で中野療養所に入所しており、一家は三男Y君が某官庁の給仕として得る十四円で生活し、それに三女の京子さんが最近また同病で倒れている。
    「本所区」竪川町のYHさん(二三)は、昨年から肺結核で倒れ、数年間看護婦として働いて貯えていた貯金は全部治療費に費(つか)い果したが、病勢は募るばかりで人の情でようやく糊口(ここう)を凌いでいる。
    同人は未だに看護婦の免状を持っているが、警察では同人の病気のためその免許も取消すことにした。
    同人の長兄次兄二人も同病のため郷里で倒れているそうである。
    「深川区」越中STさん(五○)は二年前同病で倒れ、商売の古物商もやめて一家五人と共に唯一の収入長男S君(一六)が少年工として働く日給四十銭でようやく糊口を凌いでいる。
    警視庁では同病が家族に伝染するのを慮(おもんぱか)って公立結核療養所に入所を命じたが、病床不足のため収容し得ず、勿論医師の治療も受け得ないで病床に呻吟している。
    「蒲田区」椛谷町農業ASさん(五一)の一家は十二人の大家族であるが、弟のH(四三)K(二九)Y(二一)君等がいずれも同病で倒れ、長男のI君(一九)と長女のHさん(一七)が近所の工場に働いて得る三十円の収入で暮し、農業収入は貧農のため全くないので哀れな有様である。
    「荒川区」尾久町魚行商OHさんの一家では、長男次男の二人が病臥し自分の用便の始未も出来ぬ有様、一家八人はOHさんの収入と長女Mさん(一五)が工場で働く日給合せて月三十円の収入に泣くにも泣けぬ状態である。
    「足立区」千住町車力KTさん方では、女房のHさん(三五)が倒れているが医療費がなく方面委員の救護を受け勿論家庭の世話も出来ぬので、長男のY君(一三)が小学校を退学して幼い弟妹の世話をしている。
    しかも同家は一家六名が六畳一間で暮し幼児も病母に抱かれて寝ている始末である。
    「小石川区」の易者SYさん(六○)は女房のTさん(四五)長女Mさん(一九)と三人枕を並べて同病に呻吟し、方面委員から受ける六円を生活費に一家三名が悲惨な生活を営んでいる。
    このほかカード階級の患者はいずれも悲惨を極めているので市当局とも協議の上救済の手を伸べることになった。
    結核の悲惨な一例として某紙の相談欄にこういうのがあった。
    「問」三十三歳の人妻一度結婚してすぐ夫に死別し、今年の夏御世話になった先輩方の紹介で再婚しましたが、最近重大な過失を発見しました。
    私は昨年肋膜を患いようやく全快しましたが、二ケ年位は結婚してはいけないと医師から聞かされていたのです。
    それなのに夫は五十一歳の勤人で子供三人ありますが、先妻を初め二ケ年足らずの間に親子七人が皆肺結核で死亡しています。
    私は二度ほど家出しましたがすぐにつれもどされました。
    医者は家族全部が保菌者で家の隅々まで病原菌が充満している。
    そんな家庭にいては普通の人でも感染する。
    あなたもきっと発病するだろうといいます。
    調査すべきなのに仲介者の言を信じたのがまちがいでした。
    夫は離婚をどうしても承諾してくれず、このままいれば命があぶない、無理に別れてゴタゴタを起し先輩の名誉にかかわっても困りますが、生きた心地もありません。どうしたらいいでしょう。(T子)

    category:戦前の医学論文 | by:mistoshicomments(0) | -
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