「結核問題とその趨勢」

2020.03.04 Wednesday 08:12
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    次に中等学校程度の現勢を示してみよう。文部省体育課で調査の結果、全国中等学校、実業学校、女学校生徒の在学中死亡者、病気退学、病気欠席に関する昭和八年度の統計によると、
    人 員      七十三万六千五百人
    死 亡              二千九十二人
    病気退学           三千七百六十六人
    病気休学           九千七百三十四人
    一週間以上の病気欠席者  四万七千八百八十四人
    この中約五千八百余人は病気のため途中落伍しているが、その大部分は結核性疾患によることが判明した。
    しかし先にも高等学校生徒の一割以上が結核患者であったとの例があり、その原因は単に入学試験のための過労にあるばかりではないーという一つの重大問題を提供したものとして憂慮されて居る。
    次にこれに対し当局者の見解は次のごとくである。
    当局者の見解
    「この問題は学生の体質、家庭の状態、勉強、運動時間の多寡等につきそれぞれ研究され改善される余地がある事と思われるが、結局結核に罹るという事は学生の身体に結核菌の侵入に対してこれを撃退するだけの力が備わっていないという事に帰着するのであって、この抵抗力を強めるという事がこの問題を解決する核心であることはいうまでもない。
    元来結核菌というものは、出生から成年に達するまでの間に、多かれ少なかれ我々の体内に侵入しているもので、健康な人を死後解剖すると、大抵の人はかつて結核に罹った痕跡が見られ、その感染率は三、四歳の子では三○%、五、六歳では約半数、十歳では八六%、十四、五歳以上になると一○○%という結果を示している。
    しかしこれ程多い感染率にも係わらず、実際結核病の症状を有する人がさまで多くないのは我々の体内に侵入した病菌の活動を阻止する抵抗力があるからで、この意味からいうと結核はよほど発病し難い病気である。
    ところが学生ー殊に中等学生女学生時代は体質にも変化が起る時で新陳代謝が激しく体力が消耗され、女学生にあっては初潮その他の生理的関係から抵抗力が非常に衰えてくる。
    それに試験や運動の過労も手伝って一層輪をかけた抵抗力減退の状態になるから結核菌はこの機会をとらえて威力を発揮しだすのである。
    だからその危険期にある学生諸君は常に栄養を充実して体力の恢復をはかり、抵抗力の向上を計らなくてはならない。」
    次に、医学における最近の結核治療法の大体を書いてみよう(某医博の記事による)。
    某医博の記事
    「現在における結核に対する治療法としては内科的には安静療法、栄養療法、清気療法の自然療法に加うるに心神の安静を保ついわゆる安心療法を行い、外科的には気胸療法、油気療法、横隔膜神経切除または捻除療法、あるいは胸郭整形術と称する種々の方法や手段が講じられており、これら一部においては奏効することもあるが、また他面には少しの効果もないという場合が多いのである。
    では何故に結核菌は撲滅出来にくいかというに、結核菌の特異性として一旦罹病した場合、菌は病竃(びょうそう)深く巣窟を作りリポイド皮膜と称する臘様物体により抱擁され、殺菌薬の深達を阻止するため今日まで直達すべき薬剤の発見を見なかったものである。
    もちろん化学的に視るべき殺菌剤の発表はあるが、殺菌力大なれば副作用を伴い、薬剤として一利一害、を伴い、今日に至るもまだ効果覿面(てきめん)の薬品は発表を見るには至らないのである。
    この応急を要すべき時に当りわが国に燐脂体化合物に因る適応剤の発見を見るに至ったことは実に歓喜に堪えぬところである。
    この燐脂体化合物は人類生存上欠くべからざる要素レシチンと殺菌力強大にしてしかも副作用の伴わざるテルペン系化合物との綜合品で、これが相乗的能作の発現によって病竃部に深達し、最も困難とされたリポイド皮膜を破壊し、直接菌体に作用する特殊化合物と称せらるるわけである。」
    又医学における結核の原因及び解釈は次のごとくである。
    「結核の初期には感冒型、胃腸型、有熱型、神経衰弱型等およそ六つの型があり、殊に風邪や胃腸病だと思っていたものが結核の初期だった為、病勢を悪化させた実例は実に多数に上っている。
    昔は遺伝だと思われていた結核も、ロベルト・コッホが結核菌を発見して以来伝染性の病気だということがわかった。
    しかし人は生れて十四、五歳にもなれば十人中九人までが結核菌の伝播を受けていながら発病する者は極めて少数である。
    そこで又新しく体質説が唱えられ、結核に罹り易い体質があって、たまたまその体質の人に結核菌が伝播すると発病すると考えられるようになった。
    しかしこの場合その体質というのは必ずしも先天的の特殊のものをさすのみの言葉ではなく内臓機能のどこかに弱みが出来た程度のものも当はまるのである。
    即ち生れつき幾ら丈夫な人でも不規則な生活をして無理を重ねれば当然内臓の器能に弱みが出来て結核体質となる訳である。
    例えば暴飲暴食を続けると胃腸は負担に堪えず必ず障碍を起して衰弱する。
    そうすると栄養が摂れなくなり、抵抗力が減退して体内の結核菌が活動を始める。
    又、常習的に風邪を引く人がとかくこれを軽視して手当をせずに置くと次第に機能が衰弱し、結核菌のつけ込む所となるのである。
    かように、ある疾病に続いて栄養障碍が起り抵抗力が減退し、今まで圧えつけられていた体内の結核菌が羽をのばして活動を始める状態を結核の発病というのであるがその原発の疾病によって胃腸型、感冒型、心臓型、神経衰弱型、貧血型、有熱型等に分類するのである。
    寝冷をして風邪を引く、いつもの事で直ぐ治ると思って安心していると容易に身体のだるさが脱けない。
    あるいはせきが止らぬ。又喰べ過ぎて胃腸をこわす。しかし御飯のおいしくなる時季だから節食が難しく下痢が続いて馬肥ゆる候に段々痩せて来る。
    こんな場合風邪だ胃腸だと思っていても実は既に結核が殻を破って活動している事が多いのであるから、早く姑息な手段をすてて徹底した療法を行わないと病勢を悪化させる例は沢山あるのである。」
     

    category:戦前の医学論文 | by:mistoshicomments(0) | -
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