「日本医学の建設 二 胃病」.1

2019.11.30 Saturday 08:39
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    「一概に胃病と言うても、その種類としては消化不良、胃痛、胃拡張、胃酸過多、胃下垂、胃潰瘍、胃癌等であり、その原因も種々であるが、大部分の患者について、最初の症状と原因を述べて試よう。
    まず初め、胃の外部即ち心窩(しんか)部に、水膿(余が命名)が溜積せられ、その溜積が時日を経るに従い、自然に硬化し、それに胃が圧迫さるるのである。圧迫された胃は漸次縮小をなし、胃の抱擁力が阻害さるる結果、食物の量が減少するのは当然の事である。
    又、それが為、胃の運動も少からず、妨げらるるを以て、少量の飲食にても満腹をしたり、少時間にて空腹になり、あるいは、消化不良を来すのである。
    この時の療法としては、その水膿溜結を解消排除すれば、胃は圧迫より脱(のが)れるから、胃の容積も還元し、全治するのであるが、現在にては、その水膿を除去する方法が、未だ発見されないから、止むを得ず、消極的に、胃の方へ向って、消化薬の力を借り、消化を助くる方法を執(と)るのである。
    故にこの初期の際は、胃その物は何ら異状がなく、敵は、胃を圧迫する水膿溜結その物であるのである。
    次に、胃痛の原因としては、右水膿溜結は多くの場合、心窩部の上部辺に又は縦の棒状に硬結(こうけつ)する性質を有するのであって、患者が満腹する時、胃の膨張に依って、右硬化物を、自然圧迫する。
    それが痛みを感ずるのである。
    又、右硬結は、不純物であるからその部に軽微の発熱をなし、これが、胃に感じて胸焼けとなるのである。
    この場合、胃薬を服用すれば一時、快癒するから、患者は、知らず識らずこの苦痛を脱れたいが為、胃薬連続の癖(へき)となり、ついに胃薬中毒患者となるのである。
    次にこの硬化物が、時日の経過と患者の体質に依って悪性に変じ、化膿状となり、漸次胃の内壁にまで、侵入するに至って始めて胃癌となるのである。
    しかして、診断の場合、この水膿溜積物は胃を中心に、付近を指頭にて軽く押しつつ探せば容易に発見し得らるるのである。
    軽度のものは一種の護謨(ゴム)性弾力あり、濃度のものは固くしてプリプリを感ずる。
    又肉眼にて見る時、患部は特に隆起膨脹なしおり、中には、全面板のごとく硬化せるものもあり、そして心窩部を中心に左右いずれにも見るが、多くは左の横隔膜辺に濃度の溜積を見るのが普通である。
    かくのごとき症状の場合、無差別的に消化薬を能く用いるのであるが、実は一時的の効果のみで反って病気を重からしむる結果になるのである。
    何となれば水膿圧迫によって疲労せる胃は消化薬服用に依り、食物の消化が容易となるから胃自身が活動する必要がないので胃の活力は、漸次衰退してゆくのである。
    ちょうど、楽をしてる人の四肢が弱く、労働する人が頑健である様な道理である。
    のみならずこの場合、消化のよき食物を摂取する事は胃の衰退に拍車を掛けるようなもので益々胃は弱化衰退してゆくのである。

    category:戦前の医学論文 | by:mistoshicomments(0) | -
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